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勇樹の日課は、玄関で父を待つ事。『お帰り!』と元気良く挨拶し、頭を撫でて貰うのが彼の楽しみ。出張の日などもあったが、それはほぼ毎日行われていた習慣。
勇樹はその日も玄関で待っていた。父の帰りを。あの大きく、ゴツゴツした手で自分の頭が撫でられるのを。
だがこの日は、父の帰りが遅かった。もっとも、そういった事は初めてではない。
待つのには、慣れていた。
居間の方で電話が鳴った。
はい、八神です、と母が応対する声が聞こえてきた。
しばらくして、ゴトン、と何かが落ちた音を勇樹は聞いた。
「お母さん〜、どうしたの〜?」
音を聞きつけた勇樹は、危なっかしい足取りで走り出す。
居間につくと、母は電話機の前で両手を床に突いていた。
受話器からは『奥さん! 気をしっかり持って下さい!』と呼びかけが聞こえてくる。
「お母さん? 誰か電話で呼んでるよ?」
その問い掛けにも、母は答えず。
いきなり、勇樹を抱き締めて、泣き出した。
お母さんは、何がそんなに悲しいんだろうか?
子供心に、勇樹は不思議に思った。
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