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「さっさとサインして貰おうか!」
八神勇樹の眼前には一枚の書類。彼の脇にはサングラスをかけた巨体が恫喝するように椅子に座る彼を見下ろしている。
「……ようは、返せばいいんだろう、返せば」
「ああ。七億五千八百とんで七万、利子をつけてきっちりとな!」
勇樹はうんざりしたように息をついた。紙面にはいつ、誰が、どのような理由で、誰に対し金を借りたか、という内容が無神経なまでにこれでもかと書き連ねられているが……
勇樹は頬杖を突きつつ、いらただしげに髪をかきあげる。
「……どうして俺が返さなにゃいかんのよ?」
「お前の親父が作った借金だからに決まっているだろ?」
……そうなのだ。勇樹の父親が残したものは、彼にとって、全くありがたくないもの。莫大な、借金である。
母は、これを懸命に返そうとしていたが……働き過ぎたのがたたったのか、三年前に死んだ。勇樹は今年、高校を卒業し、就職して借金を返そうと思っていたのだが……
「神経適合率、状況判断力、予想戦闘能力も合格点には達している。なにより」
いかつい顔の男は、そこで嫌味ったらしく、こう言った。
「あの八神勇人の息子ときたら、どこの借金取りだって、『インヴィテイション』にさせたがるさ」
親戚の署名もここにあるぞ、ほら。
つきつけられた紙から勇樹は眼を背ける。
「……入学金が」
「神経手術の金は、向こうで出るんだろ? なら、借金してでもやってもらうさ。学費としてたがだか百万ちょい、増えるだけだ。今更たった百万の借金がどうした? どうって事はねえだろ?」
大体、普通に働いて七億も返せるのかよ、あぁ?
返答するまでも無い……返せる訳がない。
(……どうして俺がこんな事やらされんだよ!)
母さんが死んだのも、親父が残した借金のせいだ!
そんな親父がついていた『インヴィテイション』に、どうして俺がならなきゃいけないんだ!
相続を放棄するという選択肢だって、ある事には、ある。
だがそうすると、母との思い出の品も全て手放さなければならない……それに、『インヴィテイション』になる事で、借金の返済能力があると裁判所に認められたら……破産の申し入れは出来ない。
くそ!
これも全部、クソ親人のせいだ!
紙面を睨む勇樹の眼に、暗い光が宿った。
(どうせやるなら……徹底してやってやる……世の中金が全てだ……親父のやった事なんか、全部、片っ端から否定してやる!)
「おらおら、とっとサイン」
勇樹は男に全て言わせる前に、乱暴に書名欄に名前を殴り書く。
「これでいいんだろ」
ムスッ、とする勇樹とは対照的に、男は口の端をつりあげた。
八神勇樹、十八歳。
理由はどうあれ、彼はこの瞬間、『インヴィテイション』としての一歩を踏み出したのだ。
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